機械式時計の動作を司るテンプ。
この往復運動の回数=振動数は、これまでの一体型の機械式ムーブメントでは毎時3万6000振動が最高だった。
そして、ここに毎時4万3200振動を実現させた。
ムーブメントはセイコーインスツルの雫石高級時計工房で組み立てた。
組み立てができる技術者はわずかで、現状は年に数本の製造となる。
精微な機構であり、今後が大いに期待され、新しい時計にも技術が還元されていくモデルとなる。
この「富嶽」は時計師の腕なくしては、夢に終わっていたモデルである。
というのもバーゼル&ジュネーブの時計フェアで話題になるモデルは多数あるが、“発表だけ”というモデルもある。
そのワケは、実用を前提とした製品化にたどりつけないためであり、時をキチンと刻む本来の機能をおろそかにしては、
時計とはいえないからだ。
昨年のバーゼルでセイコーインスツルから一秒に12振動を刻む驚異的なムーブメントが発表された。
一般に高性能といわれるムーブメントでも8振動/秒ということから考えれば、このムーブメントの特異性がわかるはずだ。
理論上は可能であっても、物理的に対応する部品製作や組み上げる技術者の力量がなければ難しい。
よってに天文的な価格にならざるを得なかったのが現状である。
今回、「実用できる時計を作りたい」というSIIの努力と「ぜひに商品化したい」というGSXの熱意が実を結び、
発表から1年未満という短期間で市場に登場する。とはいえ、年間で製作できる本数は極限られている。
そのためGSXが発注、というカタチで商品化された。
日本が世界に誇る頂きの名を冠した時計が実際に発売されることで、技術の高さが広く世に知れ渡ることだろう。
ひとの興味を惹きたてるアイテムは“ひとの技術”から生まれる。頭では理解できても、目の当たりにすると胸が高鳴る。
時計がひとを魅了する理由がここには存在する。
同心円のコート・ドゥ・ジュネーブの仕上げが美しい。シースルーバックから12振動/秒の動きをぜひ目にして欲しい。